弓道考察モノローグ

合い言葉は肩甲骨

矢のチューニング[決定版]

以前、矢のインサートなど調整に関する記事を書きましたがじゃあ具体的にどうしたらいいのかと言うことは書いていませんでした。

 

矢の調整について - 弓道考察モノローグ

 

前回の記事は事実としてシャフトの素材によって硬さが異なり、インサートを入れることでスパインとバランスを取ることが可能だと書きました。

 

それから約2年カーボン矢などについて考察、色々な人の道具と矢飛びを観察をした結果、矢のチューニングに関する考えがまとまったので決定版として記事にしようと思います。

 

 

結論から述べますと、

 

1.矢は長さをまず決める

2.スパインを合わせて、出来るだけ軽い素材を選ぶ

3.素材に合わせて矢羽を選ぶ

4.矢の全質量が弓のキロ数に対応した重さになるまでインサートを入れる

 

以上のステップで矢所を収束させる可能性が高いファインチューンが行えると考えました。

 

結論に至った概要を述べると、矢所の確率分布の分散が小さいほど的中は理論的に上昇します。

 

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※矢所の確率分布は体が同じように動いていれば正規分布に従うと仮定する。

しかし、実際は重力の影響などで横に扁平した分布になると考えられる。矢によるチューニングによって大きく抑えることができるのはこの横方向のブレ。

 

今回は矢所を収束させるためには身体の動きや使い方以外に道具のチューニングをもう一度見直すことが必要だと考えてこの記事を書きました。

 

主張としてはどんなにうまく身体を使って再現性を増して、精神論や気合いを突き詰めても、矢のバランスが弓にあっていないものを使っているかぎり矢所という確率分布の分散を収束させることが出来ないと言うことです。

(いつまでも再現性を崩さないのは精神論や気合いかもしれませんが、、今回は物理的なお話です。

気合いでジャンプして富士山を飛び越えるのが無理と言うような話です。)

 

たまに「初心者用の最初に買った道具でも20射詰まる」と言うことを聞くことがあります。

それはこういった道具の選定をしっかり行ったうえでの話としてはありうると思いますが、何も考えずに最適な道具の組み合わせになることはそんなに高い確率ではないので、しっかり考えてチューニングするのが無難でしょう。

 

 

ではなぜ矢のチューニングの必要なのか。

それは矢飛びの安定性を高めるという事が目的にあります。

 

先日メルカリで購入したカーボン矢に関する記事を書きました。

結論としては、ジュラルミン製の矢よりも矢所がまとまりかなり満足した結果になりました。

 

加えて、この一年で国体に出場するような選手の矢飛びを後ろから間近で観察する機会があって矢に関する一つの仮定が導けたのでそれをまとめます。

 

簡単に言うと、矢じりがある程度重くなることで弦から矢が離れる際に前側(的の右)に振られる減少を是正するという事にあります。

 

ただ大切なのは矢じりをインサートなどでいたずらに重く設定することではありません。

インサートを入れるだけでは矢の全質量が重くなり、左右のブレが是正されてもつけを上に向けなければ矢は的の下に分布するような結果になります。

 

また、会のときに矢がどの程度余れば良いかという問題にも関係してくると思います。

 

今回矢をチューニングすることで最適化したい問題は以下の図で表す現象です.

 

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矢の質量バランスが弓力と合っていないと上の図の上側で示すアーチェリーパラドクスの③から④の運動で矢が大きく振れる現象が発生します.

矢のチューニングで解決したい問題はこの振れ幅の最小化です.

ちなみにこの運動はiPhoneのスローモードで撮影することで確認ができるので試してみてください.

 

仮定として矢先が矢に対して相対的に重ければこの振れが小さくなるということをあげておきます.

相対的にというのは,シャフトの軽いものに1.5gの矢じりを使うのとシャフトが重いものに1.5gの矢じりを使うを使うのでは意味が異なるということです.

羽とシャフトが重ければ,矢じりも相対的に重いものを利用しなければこの振れる運動は制御できないと考えています.

 

これは国体選手の矢飛びをスローで見ていたときに感じた第一印象なのですが、離れの際に③から④の運動で絶対矢じりの位置がぶれずに的まで矢線の軌道が直線だったのです。

対して、多くの人は矢先が微細な振動をしながら的まで空中を泳ぐように飛んでいきます。

矢所の分布はこの矢飛びによる確率分布の発散の結果であるので、この振動が是正できれば上で示したような矢所の分散が小さくなることが期待できます。

 

本来であれば物理モデルを数式で組み立ててシミュレーションをして実験までやりたいのですが、そこまでの知識も技術もないのでスロー映像と経験から得られた知見で考察を行います。

 

まず矢の質量と重心位置について考えてみましょう。

矢の質量は矢じりとシャフトと羽根と矢筈の総和の重さで構成されています。

 

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このときの矢がある一点で釣り合う点が重心であり,その位置を矢じりの重さを相対的に判断する指標として用いることで矢のチューニングが可能になります。

 

矢の重心位置や質量は素材など多くのパラメータで変化するので、いくつか条件を固定して何を変えるとなにが変化するのか考えてみましょう。

 

・長さと素材が同じシャフトと羽根で矢じりの重さを変化させたときの重心位置

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→矢じりを重くすると重心は前に寄る

→矢の全質量が増加して矢所が下に下がる

 

・長さと素材が同じシャフトで重心位置が同じになるように羽根の素材と矢じりの重さを変化させた場合

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→羽根・矢じりに合わせて矢の全質量が増減する

→重い羽根を選んでしまうとバランスを取るのに重い矢じりを使って全質量が大きくなってしまう

 

・長さと素材が同じシャフトと同じ素材の羽根と同じ重さの矢じりでシャフトの素材や形状を変化させた場合

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→シャフトの素材をカーボンにすると矢の全質量がジュラルミンより比較的軽くなる

→シャフトの素材が同じならば杉形のものは一文字のものよりも重心が前に寄る

 

以上のように矢の素材を変えると重心位置や質量が変化するということがわかります。

 

矢のチューニングで重要なのは矢の完成時に全質量が何グラムくらいになっていてほしいのかということです。

 

これは個人的な意見ですが、矢の長さが90cmならば並の12kgで25g前後、14kgで27g前後、16kgで28g前後、18kgで29g前後くらいに収まると会のときに矢が地面と水平で矢どころは的の中心くらいになるのではないでしょうか。

※カーボン矢なら7620とか8023なんてありますが後ろの二桁が1メートルあたりのグラム数なのでプラス5g位(羽根と矢じり)が完成した矢の重さになります。

 

これは矢の長さと身長にも依存するので一概には言えません。

特にシャフトが10cmで約1gなので矢の長さを90cmを基準にすると先ほどの重さから加減1gくらいになると思います。

 

経験として私の身長が約170cm、並の16kgで95cmの30g(1gオーバーくらい?)の矢を使って、会のとき地面と矢が水平だと的の6時の辺りにまとまるのであえてやや上を狙って引いていました。(SSTを借りたときに水平に的心に飛んで感動した...)

また、弓力によって的まで飛ばせる矢の質量は引束によらずほとんど同じだと思います 。

 

ーーーー【追記】ーーーー

知り合いから96cmのEASTONの80-23で全質量28gをもらったのですが、会のときに水平で的心に飛ぶバランスでした。

(2020/1/13)

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以上のことから矢を選ぶときは、まずは弓力にあった矢の質量を決定します。

そして質量予算に合わせてシャフト、羽根、矢じりの順に素材を選びます。

 

ポイント

1.カーボンを選択するとジュラルミンより2-3gは軽く出来ます。

2.杉形を選択すると同じカーボンでもより前方に重心を移動出来ます。

3.羽根は丈夫なものはやはり重く、ターキーなどは軽量ですが劣化しやすく矢によって矢飛びが変わるリスクがあります。

4.シャフトと羽根の重さを質量予算から引いてその重さを上限としてインサートを入れます。

 

☆ファインチューニングはこのポイント4においてインサートの量を変化させたときの矢所に合わせて最適なインサートを選定します。

 

次に矢の長さについて考察をします。

 

はじめに結論を述べると、会の時に矢先は約5cmほどはみ出るように矢の長さを決定するのが良いと考えています。

下のイラストで示した矢先の n cm の部分が少しはみ出ている方が矢飛びが安定すると個人的に考えています。

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 ここからはうまく根拠となる理由を示せないので、個人的な感想を書いていきます。

 

この余った部分は矢飛びに影響を及ぼすのかというのは弓道を始めた時からずっと考えていたことでした。

危険かどうかは別として、会の時にぴったり矢じりがはみ出るくらいに切り詰めてしまったら毎回同じ振動になるのではないかと考えていたくらいです。

実際切り詰めすぎて参段審査で結果的に受かってはいたのですが、審査員の方に注意を受けました。

 

あくまでも物理運動について注目した時にこのはみ出た矢がどのようなメリットを及ぼすのかと考えていたのですが、どうやら少し出ている方が解決したい矢先の振れをやや是正できるのではないかと直感的に考えました。

 

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上の図のように矢先がはみ出ていないと、ポンッと右前の方に矢が押し出される様に飛び出してしまうイメージです。

 

感覚としては、ややはみ出るほうが矢の振動を受け止めて③から④で矢の振動が固定端のように振る舞い、対して矢が切り詰められている場合は自由端のようになるためこのときのエネルギーの逃げ方の違いから重心位置と矢先の方向が変わってしまうのではないかと考えています。

 

固定端振動と自由端振動に関しては以下のホームページを参考にしてください。

固定端・自由端 ■わかりやすい高校物理の部屋■

 

 

これらをまとめると、

 

1.矢は長さをまず決める

2.スパインを合わせて、出来るだけ軽い素材を選ぶ

→シャフトの重さが確定

 

3.素材に合わせて矢羽を選ぶ

→矢じりとのバランスを考えて選択

 

4.矢の全質量が弓のキロ数に対応した重さになるまでインサートを入れる

→質量予算内に収まるように矢じりを挿入

 

という結論になります。

 

色々書きましたが、結局矢が収束するという経験的事実の方が重要ですのであくまでもヒントとして矢のファインチューニングを考えてみるといいかもしれません。

 

もう一つ、矢を変えたからと言って必ず矢所が収束するわけではありません。

道具の選択と調整は必要条件ですが、道具と射は表裏一体。

道具が良くても射が中途半端なら道具も活かせません。

 

しかし、射を向上させるなら道具の調整は必要不可欠だと私は考えています。