今回の内容は矢所の散り方や偏りから自分の今の状態を客観的に見る方法を考察して記述します。
今回は統計の分散という知識を用いります。
分散とは簡単に言ってしまえばあるデータの散らばり具合です。
求め方を難しくならないようにあえて数式などを使わずに説明すると 分散 = (それぞれの値 - それぞれの値の平均値)の二乗 ÷ 値の数 となります。
イメージとしてはそれぞれのデータをそのまま扱っては差がわかりにくいので、平均との相対差を二乗することで差を誇張してわかりやすくし、さらに負の値も正の値になるのでいろいろと扱いやすくしているのだと思います。
そしてこのとき、分散の値が大きいときにデータの値のばらつきが大きく、分散の値が小さいときはデータの値のばらつきが小さいわかります。
というのも平均値との差によって分散が変わりますので、すべてのデータが平均値であれば理論的には分散は0になることがわかりますね。
今回はこの分散の概念を弓道の矢所に当てはめて考えたいと思います。
まずこの記事の趣旨が曖昧にならないようにこれをする目的を具体的に記しておきます。
- すべての矢を的の中心にあてること
- そのために必要な事をすること
- 必要なことは何かを知ること
今回の思考法は3の必要なことは何かを知ることを自分で見つけるための考察方法です。
では、そのための手順をまとめてまずは書いていきましょう。
- 矢所を全て記録する
- 100本ほどを目安に記録を一枚の紙にまとめる
- 十文字に分解してヒストグラムを作成する
- 考察をして練習にフィードバックする
以上がおすすめ(?)のやり方です。
これをうまくPDCAサイクルに組み込めればより効率的かつ合理的な練習をできるのではないでしょうか。
それでは上の手順をより具体的に説明していきます。
- 矢所を全て記録する
これは過去につけていた記録の一部です。
とにかくデータは多ければそれだけ良いです。
立の記録だけ取るなど愚の骨頂です。
とにかくどの矢も同じ一本です。全ての矢を記録してコンスタントな射を目指すために記録を取ります。
- 100本ほどを目安に記録を一枚の紙にまとめる
※ 今後の進行のため一例として適当に作成したイラストです。
大きな紙に円を描いて数日分の矢の記録を写します。
このときに日付と道場をメモしておき、それらで異なる色ペンで記録するとあとで深く考察ができます。
というのも、道場によっては環境要因によって矢所が規則的に変化する可能性があるため。
- 十文字に分解してヒストグラムを作成する
ここで再び十文字に分解する手法が活きてきます。
以前の記事でさらっと書いていましたが今回はその実践編とでも言えます。
では十文字に分解するとはどういうことでしょうか。
イメージはこうです。
的をきちんと地面に対して水平、垂直に分断します。
左右方向には重力もうわ押しも関係ありませんのでこうして水平、垂直を分けて矢所の分布を考えるのが一番理にかなっています 。
- 考察をして練習にフィードバックする
ここで重要なのは中心点からの矢所のズレのみを考えることです。
枠ぎりぎりに入ったからあたりではありません 。
弓道は枠に刺さればあたりとみなされますが、そういったルールが弓矢という競技を曖昧なものにしています。
もちろん礼射として、儒教的な心を重んじる武道としての側面があるため仕方がないことですが大学弓道など勝負としての弓道には競技の本質を盲目的させてしまうことだと思います。
この中心点からのズレに着目して、まずは左右の分散が0になるよう体のズレや適正な道具選び、足踏みの位置など正確に自分の中で定義を明確にして行くことが正射正中への第一歩ではないでしょうか。
例のグラフでは矢所の重心がやや右に寄っていますね。
ここから因子を分析するのは射手次第です。
もちろんその要因は普段から周囲の人に指摘されていることかもしれません。
狙いが右についているとか、足踏みが的を向いていないとか、物見が浅いとか。
もしそれらが適正ならば次に道具を疑います
矢の硬さが弓にあっていないかもしれません。
弓をひねりすぎているために弓手を振っているかもしれません。
こうやって、より純度の高い自分の射へと邁進していくと考えています。
そして左右があったならば次は縦を合わせるだけです。
縦のズレが中心に合えば、あとはどんな状況でも同じことをするだけですね。
もし縦横のズレが全く無くなった場合は道具を見直すのが良いと思います。
重心が的心にあるということは、矢が離れるまでに道具の何かが矢に同じ様に悪さをしていることになります。
※赤いラインのように散ることを正規分布といいます 。
要はこの発散の要因を見つけて改善すれば、円は小さくなり青丸に収まるようになるのです。
一定して同じズレが生じる場合は弓のキロ数が小さかったり、弓の反動が要因と考えられます。もしくは、会のときに弓より的方向にはみ出ている矢の長さが長すぎるなど。
これらは複雑に相互作用しているバタフライエフェクトのような所がありますので一概には言えませんが、"身体が原因ではないと断言できるのならば" 弓や矢を変えたり道具を考え直すのも一つの手かもしれません。
こういった思考法の中に道具を正しく使うということが含まれているかは本当に重要だと感じます。
ただの知識オタクでは何の意味もありませんがやはり道具のチューニングというのは大切です。
身体がいくら正しくても、道具が整っていなければ結果はついてこないと思います。
それはバターナイフを使ってステーキを食べるほどの異様さだと思います。
誰が正しいではなく、とにかく自分で研究をしてより高みを目指すその過程の中に真の醍醐味や人間的成長があるのではないでしょうか。
- コラム
矢所の分散が小さい選手ほど悩むことがあると考えており、矢所がまとまっている的中のある選手がいつもと違う道場に行くと突然矢所がまとまって下に行く、もしくは右にばっかり行くということが本当に稀にあります。
そうなったときに分散が普段と変わらないならば、射手の心的要因か環境的要因が考えられると思います。
分散が小さい選手ほど普段と同じ様に引けているので、なぜあたらないのか分からずすぐに調整ができない時もあるのではないでしょうか。
そういったとき、緊張などといった心的要因でないとすれば、的までの距離が若干異なるとか立ち位置が錯視でズレているなどの要因があると思います。
そういったときにいかに自己分析しておいて環境に惑わされないように狙いを上げるとか足踏みを意図的にずらすなど対策を練っておけるかが鍵になると思います。