弓道考察モノローグ

合い言葉は肩甲骨

弓返りの軸は弓の中心か内竹の角か、外竹の角か

本ブログではできる限り道具の物理的な動作や現象についてを中心に記述したいと考えております。

しかし弓返りなどの現象はどうしても引き方などに説明がかぶる可能性がありますが、極力精神論や身体の使い方についての記述は避けつつ考察を展開したいと思います。

 

それでは弓返りの軸は弓の中心か内竹の角か外竹の角か、どちらがより理想的な動きをすると考えますか?

 

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私の答えは弓の中心です。

 

ではそれぞれの場合では弓返りや矢飛びにどう影響するでしょうか。

 

今回は幾何学的に考察してみましょう。 

 

比較するのは以下の3つです。

A: 弓の中心を軸に弓返り

B: 弓の外竹の角を軸に弓返り

C: 弓の内竹の角を軸に弓返り

 

まず考察の前に弓返りの瞬間に弓はどのような運動をするのかスローモーション映像を見てみましょう。

 

 「弓道」のスローモーション映像 - YouTube

 

離れから的中の瞬間までをスーパースローカメラで撮影した動画です。

一秒間に3000枚という撮影速度で矢が弦から外れるまでの決定的な瞬間を捉えています。

 

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この時点で弓が弦を張った通常の状態となっています。

 

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その後はやや弦を押し込んだような形状になります。

※この押し込みがあるため弓把が15cmほどでなくてはいけません。高すぎても低すぎても矢に余計な力を与えて結果的に矢所が発散することになります。

 

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次のコマに進み、やっとここで弦から矢筈が外れました。

 

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上の画像の拡大図となります。

 

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 その後弓は惰性で弓返りをします。

 

 

次に馬手肘側からの映像をコマ送りで見てみましょう。

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離れの瞬間矢がややたわんだのがわかります。

 

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コマ送りで観察すると矢が蛇の様に蛇行しながら運動していますので、アーチェリーパラドックスが起きていることがわかりますね。

 

アーチェリーパラドックスについては以前の記事をご覧ください。

 

 基本の"き"、アーチェリーパラドックス - 弓道考察モノローグ

 

今回のテーマは弓の回転軸についてですが、最も重要なポイントはアーチェリーパラドックスを最も有効的に発生させるための軸はどこかという話になりますのでぜひともアーチェリーパラドックスについて理解してからこの先をご覧いただけたら嬉しいです。

 

さて、イメージはできたでしょうか。

 

ここからが本題です。

まず注目すべきは①と⑥のコマです。

 

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で矢が向いている方向が異なるのがおわかりでしょうか。

 

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こちらが2つの画像を透かし合成したものです。

 

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 差の絶対値を見ると射手やカメラは不動であり矢のみが向きを変えたことがわかりますね。

 

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本当ならば会の位置の矢の補助線と平行となるように矢があるべきなので矢の向きは①と⑥で異なることが幾何学的にも確認できます。

 

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引用【http://hr-inoue.net/zscience/topics/bow/bow.html

 

上が起こるべき運動であるが⑥のコマで起きたのは下のイラストのもの。

 

念の為⑨コマ目も比較してみましょう。

 

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このコマに補助線を入れて先程の画像にさらに合成してみましょう。

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青の⑥コマ目と黄色の⑨コマ目は方向が近似していることがわかりますね。

 

これは⑥のコマでズレてからはほぼその方向に矢が飛ぶことを示しています。

 

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↑数字がずれていますが④の復元運動で方向を大きく右に変えてしまう。

 

的中率を上げるというのはこの様なズレを小さくするために何をするかが一番の近道だと考えます。

 

本題に戻します。

 

私が何を言いたいのかというと、①コマ目と⑥コマ目の間で矢がそっぽを向いてしまうとその方向へ矢が飛んでいってしまうということです。

そして、この①コマから⑥コマまでのズレの原因が弓返りの軸が弓の中心でないことだと考えています。

 

動画の選手の方への失礼な意見となってしまうことを先に謝罪させていただきます。

世の中には様々な引き方をされる人がいらっしゃって、仮に私がそれらを分類するならというお話でこれから考察を展開させていただきます。

私がこの動画だけで判断すると、内竹の角を軸に弓返りをさせて弓が的方向に伸びつつも下座の方へ弓が移動しながら離れている様に思われます。

結果矢はやや右に一定してずれて的心に届く。

このような場合スパインが強くつまり矢がたわみにくいために前に飛ぶこともありますが、弓返りのあとの弓の位置がかなり下座の方へあったのでおそらく普段から狙いがやや後ろについているのではないでしょうか、、、

 

ではなぜこのようになるのかを幾何学的に考察いたします。

 

 

A: 弓の中心が軸

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ここで注目すべきは矢の触れる位置です。

なぜ弓の中心を回転軸とするのが良いのか、それは離れの際に矢が弓から浮かないというのが一つの要因です。

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※ この幅が小さいほどアーチェリーパラドックスが働きやすい。

 

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※矢が発する際のイメージ

 

アーチェリーパラドックスを再現性高く発生させるには弦と弓で同じように矢を押しつぶすことが重要です。

それぞれの図は70度まで回転した様子を表していますが、弓の中心を軸としてを押す場合は的方向のみに力が加わるということがわかると思います。

 

そして二点目の重要な点は離れから矢筈が弦から取れるまでに、弦が顔から離れすぎないということがあげられます。

もし側木のどこかを手の平(天紋線など)に引っ掛けてしまうと、弓がその点で踏ん張る様に弓返りをして余計な回転力(トルク)が生まれます。

すると矢筈が外れる前に上座の方向へ弦が矢を押し出してしまうと思われます。

 

もう一つ良い点を上げるならば、軸が進む方向は的方向のみで虎口(ここう:人差し指と親指の又)をなめる様に弓返りが起きるため弓の芯を手の芯で受けながら押すということが容易であるということです。

 

 

B: 弓の外竹の角を軸に弓返りをする

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一見すると矢が接するところがあまり位置変化をしていないためよろしいように思えますが致命的な点が一つあります。

それは手の内の親指付け根があたる位置が大きく空いてしまうことです。

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※弦がカケから取れた瞬間に親指付け根の支えがなくなるのと同義。

 

この隙間は弦がカケから離れた瞬間から生まれます。

回転軸が中心であれば弓の内竹が虎口をなめる様に回転するが、この場合は親指が力を加えていた部分が急に空になってしまうため扉が急に開くような弓返りとなってしまいます。

すると弓を押すための力が毎回不均一となり再現性はより失われていくと思われます。

さらに親指を空いた空間に押し込むような動きになることから手首をひねる動作や癖が生まれると思われます。

 

また、手首をひねらずに意識して引いた場合では軸が支点となり矢筈の位置を上座方向へと押しやることになり矢飛びはやや不安定になると思われます。

 


C: 弓の内竹の角を軸に弓返りする

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私が考えうる中で一番弓手に負荷がかかる軸です。

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矢が弦と押し潰される前にすでに弓は下座の方へと移動するように弓手に負荷をかけます。

これは外竹の場合と同様に回転軸が手に引っかかっていますので、弓がこの点で踏ん張るように弦を上座の方へと押しやるためです。

またその反作用からやや的の左の方へと弓が逃げていき結果として弓手を振るような残心となると思われます。

仮に親指を押し込み、下座の方へと移動しないように弓手を踏ん張ったとしても矢筈をより上座の方へと押しやるねじりの力へと変換されてしまうのではないでしょうか。

 

以上がそれぞれの動きを図示したときの様子です。

 

ここまでいろいろと話しましたがどれが正しいという話ではありません。

いろいろ見てきた中で武射系の射技ではどうやら外竹や内竹の角を軸に弓返りをさせていることが多いように思われます。

これは私の考察ですが弓術時代から受け継がれた伝統のある射法はもとは手ぐすねを付けて弓と手を固定して引いていたためむしろ手首をひねることで弓返りのような効果を与えていたのではないでしょうか。

というのも、もし弓と手を固定してしまうと非センターショットの弓であるためアーチェリーパラドックスが発生する以前に弓に矢が擦られて右へと大きくそれて飛んでいってしまうので、それこそ野球のピッチングの様に手首を返して矢を飛ばしていたのではないでしょうか。

そして弓術の名残がこのような射法のような気がします。

 

薩摩日置流腰矢指矢(2017.5.7、出水市高尾野武道館弓道場) - YouTube

 

こちらは日置流の敵前の動画です。

えいやーと叫びがら大きく弓手を振って射る様子がわかります。

 

ここまでが本日の内容でした。

 

少しでも手の内や射技の参考となれば嬉しいです。

 

関連: カケとアーチェリーパラドックスと離れ - 弓道考察モノローグ

アーチェリーパラドックスをより精確に発生させるための考察で馬手側についても記事を作成しました。(追記:2018/3/14)

 

弓返りの動機について - 弓道考察モノローグ

弓返りの動機はどんな力で生まれるのかについて考えました。(追記:2018/6/21)